福岡地方裁判所久留米支部 昭和57年(ヨ)141号 決定
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【判旨】
一 申請の適否について
債務者らは、債権者の代表者として本件申請をした金子の代表権そのものを争つているが、それは同時に本件の主たる争点にも関連するので、まずこの点について判断する。
1 債権者主張1の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、金子は、昭和五七年五月二三日、債権者定例総会において会長に選出されたこと及び右定例総会を招集した松崎は、昭和五六年一月八日、上島ら三名が本件総会において選出された副会長として招集した一月臨時総会において会長として選出されたことが一応認められる。ところで、債務者らは、本件総会は、流会になつたため、何ら役員改選決議は行なわれておらず、従つて上島ら三名が副会長に選出されたこともなく、又、仮に、副会長に選出されたとしても、総会の招集権を有しないので、同人らが招集した一月臨時総会は同窓会の総会とはいえないと主張する。
(一) そこで、まず本件総会において、役員選任決議があつたか否かについて検討する。昭和五五年五月一八日、本件定例総会が開催されたこと及びその頃前任の会長債務者藤本及び副会長四名の任期が満了したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、会長及び副会長の選出方法は、従前より総会を構成する会員を福島高等学校、同校定時制、同校の前身学校である八女高等女学校、同福島高等商業学校の卒業生に分け、予め、右各グループから推薦された候補者の協議、あるいは右各グループから選出された選考委員の協議により、定員と同数の会長及び副会長候補を選考し、右候補者が当該役員に選任されることについて総会の承認を得るというもの(以下、後者の選出方法を「選考委員方式」という。)であり、総会の議長は総会の承認の有無を右選考結果に対する会員の発言や拍手等の言動によつて判断していたこと、本件総会は債務者成清を議長として八女市町村会館で開催され、他の議事を終つた後、午後二時ごろから会長及び副会長の選出に入つたが、その際、債務者藤本から選出方法につき右選考委員方式が提案され、総会はこれを承認し、右各グループから二名宛(但し、定時制グループからは一名のみを選出)合計七名の選考委員が選出されたこと、右選考委員は協議のうえ「福島高校創立七〇周年記念事業終了までとの期限付で現会長及び副会長が留任する。」との選考案を決定し、堤一夫委員がその旨総会に発表したが、債務者藤本から右期限付の選任は会則に反するとの異議が出されたため、更に各グループから一名宛選考委員を追加選出したうえ(実際には福島高等商業学校グループからは追加しないまま)、選考をやりなおすこととなつたこと、そこで再度選考委員らが協議した結果「会長に黒岩を、副会長に上島ら三名と債務者古池を、右記念事業委員会委員長に債務者藤本を推薦する。」旨決定し、午後四時四五分頃堤委員がその旨総会に発表したこと、これに対して債務者藤本から「右委員長は同窓会で決めることではない。」旨、債務者古池から「私は引き受けない。」旨の発言があつたが、その外には右役員の選考について特に意見を述べるものも、又、総会の続行ないし流会をいう格別の発言もなく、会場使用時限である午後五時一〇分前となつたのでそのまま閉会となつたこと、債務者成清はその日あるいは翌日ころ本件総会に欠席していた黒岩に対し、同人が総会において会長に選出されたことを報告したうえ会長就任を要請したが、同人は多忙等を理由にこれを拒否したことが一応認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は信用できない。
右認定事実によれば、総会は、右の第二回目の選考結果のうち、その場で本人自ら辞退の意思を表明した債務者古池の関係はともかく、少なくとも会員間において何の異議も出なかつた候補者、すなわち会長候補黒岩、副会長候補上島ら三名についてはその選任を承認し、もつて同人らを当該役員に選出したと認めるのが相当である。ところで、債務者らは、右選考結果について賛意を表する拍手がなかつたのであるから総会はこれを承認していない旨主張するところ、前記疎明資料によると、右選考結果の発表に対する拍手は全くなかつたとはいえないまでも、必ずしも多くはなかつたことが窺われ、前記認定の事実関係、ことに総会における会長及び副会長選出の際の手続進行の経過からすると、右拍手は総会の承認を推認させる一資料にすぎないものと認められるうえ、前記認定のとおり、本件総会の議長である債務者成清自身が黒岩に対し会長選出の通知をするなど、右選考結果について総会の承認があつたと判断して行動していることなどの事実に照らせば、拍手がなかつたからといつて、あるいはそれが少なかつたからといつて、直ちに前記認定を履すことはできない。更に、債務者らは、役員に選出されれば当然その者の新任の挨拶がなされるはずであるのに、本件総会においては右挨拶がなされなかつたのであるから、役員は選出されていない旨主張するが、前記認定のとおり、会長に選出された黒岩は本件総会に出席していなかつたうえ、第二回目の選考結果が発表された際には、会場の使用時限が迫つており、新任の挨拶を行なう時間的余裕もなかつたと認められるので新任役員の挨拶がなかつたからといつて直ちに前記認定を覆すことはできない。
(二) 次に、副会長上島ら三名が一月臨時総会の招集権を有するか否かについて検討する。
前記疎明資料によれば、すでに認定したように、債務者藤本ら前任の会長及び副会長の任期が満了し、本件総会において後任会長に黒岩が、副会長に上島ら三名が選出されたものの、黒岩が会長就任を拒否したことから、上島ら三名が会長の職務を代行して一月臨時総会を招集したものであることが認められる。ところで、<証拠>によれば、同窓会においては、会長欠員の場合の処置として商法第二六一条、第二五八条と同趣旨の会則を設けることなく、ただ会則第七条に、副会長は「会長を補佐し又は会長の代理をする」との規定を置いていることが認められる。そして右規定は、副会長が会長を代理する場合を特に限定しておらず、会長が任期の中途において欠けるに至つたときは勿論、新に選出された会長が就任を承諾しないことなどによりこれが欠けるに至つたときも、副会長があるかぎり、右副会長において後任会長が選出されるまでの間、総会の招集等の会長の職務を行なうことを定めたものと解するのが相当である。過去に本件と同種の事例がなく、右と異なる慣行があつたことを窺わせる資料もない。従つて、右の場合前任の会長が会長の職務を行なう権限を有するとの債務者らの主張は採用できない。
2 右に説示したところによれば、一月臨時総会の招集手続には何ら瑕疵は存しないということができ、そして、前記1の冒頭において認定した金子が会長に選出されるに至る経緯について特に違法な点は認められないのであるから、金子は有効に会長に選出されたと認めるのが相当である。
従つて、債権者の本件申請は正当な代表者によりなされた適法なものというべきである。
二被保全権利について
1 債権者主張3のうちの当事者間に争いのない事実及び<証拠>によれば、債務者藤本は同窓会の会長と称し、同窓会所有にかかる同窓会名義の印鑑、預金通帳、会計帳簿、同窓会名簿(以下「印鑑等」という。)を所持していること、債務者古池、同木下、同斉藤は、それぞれ同窓会の副会長と、同近松、同井手は、それぞれ同窓会の監査委員と、その余の債務者らは、それぞれ同窓会の理事と称していること、そしてまた、債務者らはいずれも同窓会の正当な執行、議決機関と称して対外的に同窓会の名称を使用し行動していることが認められる。
2 債務者らは、債務者藤本は同窓会の会長、債務者古池、同木下、同斉藤は同窓会の副会長である旨主張し、事実摘示第二項二4記載のとおり同債務者らが会長、副会長に選出された経緯について主張するが、前示のとおり債務者藤本が本件総会が開催された頃会長を任期満了で退任した後は、副会長である上島ら三名が後任会長が選出されるまで会長の権限を有し、債務者藤本はこれを有しないと解されるのであるから、債務者ら主張の債務者藤本が招集した臨時総会は招集権限のない者によつて招集されたもので、同窓会の総会として成立しないものといわざるを得ないのであるから、その余の点について判断するまでもなく債務者らの右主張は認められない。又、債務者らは、債務者藤本、同古池、同木下、同斉藤を除く債務者らがその称する役員に選出された経緯について主張、立証しないので、同債務者らがその称する役員であることを認めることができない。
3 右によれば、債務者藤本は同窓会所有の印鑑等を債権者に引渡す義務があり、債務者らはそれぞれ自称する債権者の役員名及び債権者の機関として同窓会の名称の使用を差控える義務があるというべきである。
三保全の必要性
本件仮処分の必要性について考えるに、債権者の運営に欠くべからざるものと考えられる印鑑等を債権者の会長でない債務者藤本が所持し、債権者の役員でない者が役員名を使用し、その機関として同窓会の名称を使用して行動することは、債権者の運営に重大な支障を生ぜしめ、又、その対外的信用を著しく損ない、もつて債権者に測り知れない損害を及ぼす危険があることは明白であるので、右印鑑等の引渡及び債権者の役員名、同窓会の名称の使用差止を求めた本件仮処分はその必要性があるものということができる。
(権藤義臣 浅野秀樹 太田和夫)